Story 2 〜甘味処「千寿庵」〜
「そりゃ、大変だねぇ」
突然帝の家に莉沙が転がり込んで早3日。
話を聞く限り、幼稚園等そういう所に縁の無かった莉沙。
しかし、そういう訳にも行かず、家に誰もいない昼間は、永久の所で預かって貰う事になった。
「ばぁさん、絶対そう思ってねぇだろ」
帝たちが住むアパートから徒歩5分の所に、帝が修行している老舗和菓子屋の『千寿庵』がある。
ちょっとした事情から、定職に就く事もまま成らなかった帝を、此処の主人が引き取ってくれたのだ。
そう言う訳からか、どうも此処の主人には頭が上がらない。
「おんや、そうかい?いくら似た種族の風ちゃんや太陽君がいるとはいえ、お前に娘とはねぇ・・・」
そういって、ゲンナリした表情の帝を言い捨てたのは、この千寿庵の主人、千々石千寿。
彼女は先祖代々続くこの和菓子屋の女主人で、結婚したと同時に、ここを継いだ。
とはいっても、この店は女系に引き継がれるのが仕来たりらしく、其処の辺りは帝にも解らないらしい。
「娘じゃねぇ、養子だよ」
ブツクサ文句を言う帝の前にある作業台には、美しく作られた練りきりがおかれていた。
「養子でも同じだろうよ。ハクリューの頃はジョウト全域の野郎共から恐れられてたお前が、ねぇ・・・」
「・・・・・・・・破壊光線でシメんぞ」
「じゃぁ私は大文字で焼き殺してやろうかねぇ」
喉下についているキュウコン族独特の毛房が、ふわりと陽炎を伴い、揺れた。
「わーかったよ。ところで、爆のヤツはどうしたんだ?」
手を止め、帝がぼやいた。
「あぁ、爆乃助かい?もうそろそろ返ってくる頃なんだが・・・」
そういって、千寿が手を置いたと同時に、裏口の戸がものすごい勢いで開き・・・
「いでっ!!」
誰かの顔面に当たって、誰かが痛がる声が聞こえた。
「爆乃助!いつも静かに開けろと言っているだろうに!」
「ゴメン母さん。急いでてさ。・・お、帝。いつの間に?」
「テメェが外回り行ってる間に来たんだよ。炎蔵師匠が泣くぜ?お前、一応此処の跡取りだろーが」
ぼやきと嘲笑を含ませた、ストレートな嫌味は、本人は自覚していないが相当性質が悪い。
「・・・・・・・わかってるさ。それと、お前、子供出来たって!?」
ブツッ。帝の何かが切れた。千寿は呆れた顔をしているが、爆乃助はポカンとしている。
そして、ゆっくりと振り向いた帝の周りに、怒りの陽炎がゆらりと蠢いた。
「ほほぅ・・・。てめぇ、相当死にたいらしいな・・・・」
「げっ・・・!帝の逆鱗・・・!!!」
しかし。
「喧嘩は外でやんな!!!!!」
と、千寿に怒鳴られ、二人ともつまみ出されてしまった。
その後、爆乃助がどうなったか・・・。
唯一つ言えるのは、室内に戻ってきた時、帝の頬には小さな火傷が出来ていて、
爆乃助はボコボコにだった、と言う事だけだ。
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この後二人とも、千寿さんにこっぴどく叱られます。
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