Story 1 〜若頭と妙な話〜

「あれ?居ないのかな・・・・」 エンジュの片隅にある、外見だけはボロくさいアパートの一室。 其処の前に、ガタイのいい若い男が立っていた。 顔には切り傷、目つきは悪い。下手をすれば、この部屋の主よりも怖いかもしれなかった。 「どうすっかな・・・・」 ちなみに今は真昼間。だが、その人物が着ているのは、真っ黒なスーツ。 綺麗に日があたるところじゃさぞかし暑いだろうとも思えるくらいだ。 すると、階段のほうから、足音が聞こえてきた。 「お。伴蔵じゃねぇか」 そう言ったのは、勿論部屋の主、帝。 そして、帝に手を引かれていたのは、勿論娘の莉沙である。 「帝さん、お久しぶりです!」 怖いなりに顔を緩めたのだろうが、莉沙は・・・・ 「ふぇ・・・」 泣き出す寸前だ。 「あー・・・。こいつは大丈夫だ」 とりあえず、中に入るか、という事になった。 「噂には聞いてましたけど、その子が・・・」 リビングには、今のところ、帝、伴蔵、莉沙が居る。 本来ならば永久に莉沙を頼むところなのだろうが、生憎永久は学会か何かで居ない。 仕方ない、と言えばそうである。 「まぁな。で、何の用だ」 帝の膝枕ですっかり寝入ってしまった莉沙を起こさないように、問う。 「いや、実はですね。妙な話を聞いたんですよ」 「妙な話・・・?」 「はい。最近、ウチの若い衆の家族が、変な連中にパクられそうになったらしいんです」 「ただの変質者じゃねぇか」 そういって、莉沙をそーっとずらした。 「でも、変なんですよ」 「変?何が」 「ウチの組の名前を知っていて、それから行動に移ったらしいんです」 「ただの怨恨だろ」 「他の組の連中が、ウチのシマで手を出せる訳ないでしょう?その場は何とかなったらしいですけど」 良く考えてみると、確かにそうだ。 伴蔵は、エンジュ・コガネ・アサギ近辺を裏で仕切っている広域暴力団の若頭。 その伴蔵が、そうやって言うのだから否定の可能性はほぼ0に等しい。 帝は関わった事が無いため、詳しくは知らないが、そういう事なのだろう。 「それが俺と何の関係がある」 「その、パクられそうになった奴の一族は、ドンファン一族の中でも、色違いの家系なんです」 「・・・・・・・・・珍しい、家系か」 「はい。もしかして、風ちゃんとか、太陽君たちにも被害が出るんじゃないかと思って」 怖い顔をしているものの、伴蔵は子供(未成年)には甘い。 関係者である帝の親戚である風や太陽には目がないといっても過言ではない。 「あいつらも、まぁ、そういう部類だからな」 「その子も・・・そうでしょう?フリーザー族なんて、もう生き残ってないんですから」 「どういう意味だ?」 「実は・・・」 言おうとした瞬間。 「ただいま〜」 風が帰って来た。 「あら!伴蔵さん。お久しぶりです。お茶お出ししますね」 「いや、いいよ。もう帰るところだからね」 「伴蔵!」 「風ちゃん達がいると話せないんですよ。兎に角、今度はなしますよ」 そういって、伴蔵はさっさと帰って行ってしまった。 「ふぁ・・・・・」 丁度、莉沙が目を覚ました。

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伴蔵は帝の後輩です。