Story 4 〜後ろ暗い噂〜
「ありがとうございましたー!」
良く晴れたある日の昼下がり。
千寿庵の接客担当を、帝がやっていた。
千寿曰く、「帝が接客担当だと売上が良い」らしい。
「爆、もうそろそろ交代じゃねぇのか?」
「あ、そうだね」
奥に引っ込んで和菓子を作っていた爆乃助が、ひょっこりと顔を出した。
「そういえば」
千寿庵の片隅には、イートインコーナーが設けられている。
買った和菓子を快適な店内で食べられる、と言う訳で、結構賑やかだ。
「帝、最近妙な噂が流れてるの知ってるか?」
「は?妙な噂?」
手を拭き拭き、爆乃助が切り出す。
「そうだよ。何でも、珍しいポケモンの一族だけ狙って、誘拐とか起きてるらしい」
それを聞いた客が、くるりとこっちを向いた。
イートインコーナーに良く来る常連で、噂好きな若いラッタの女の子だ。
「あー、それ聞いたことあるわぁ!」
「本当に?」
歳が下だと判っている上に、友達のような感覚だから、こんな調子だ。
「うん。うちの友達で、色違いのバタフリーの女の子が、攫われてすぐに戻ってきたんよ」
「それで?」
「彼女は、ちょっと血を抜かれただけやったらしいんけど、ひどく怖がって・・・」
「血を抜かれた?」
「そうなんよ。それだけだったのに、酷い怖がり様で・・。
確か、全身黒尽くめのポケモンにやられた、言うとったかなぁ・・・」
「全身黒尽くめ・・・?」
爆乃助が頭をひねった。
「帝、お前知ってるか?」
「何で俺なんだ」
「お前知り合い多そうだし」
「ふざけんな。俺の知り合いにそんなやつはいねぇよ」
「そ、っか」
帝は、一抹の嫌な予感を感じた。
そう、伴蔵が言っていたあの言葉が引っかかっていたのだ。
『ウチの若い衆の家族が、変な連中にパクられそうになったらしい』
もしそいつらが莉沙たちに気付けば、珍種中の珍種である莉沙達は確実に狙われる。
伴蔵が言っていた、「フリーザー一族は生き残っていない」と言う言葉が真実なら、尚更だ。
深い真実はわからないが、もしかして、という心当たりに似た事件なら聞いた記憶がある。
嫌な話ばかり聴いて、気が滅入りそうだ。
「・・・・帝?」
「あ?あぁ、なんだ?」
「顔色が青いぞ。大丈夫か?」
「大丈夫だ、ちょっと、考え事をしてただけだからな」
「そうか?なら、いいけど」
空は、晴れ渡って青い。
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