Story 1 〜エンジュ⇒コガネ〜

秋も深まり、エンジュの近くにある山の裾野も薄く色づき始めた頃。 ボロアパートの片隅の一室で、一人の少年が大きめのボストンバッグに荷物を詰めていた。 「えーと、これと、あれと・・・」 荷物を詰めていたのは、雷太陽。 この部屋の主、龍野帝の父方の従兄だ。・・遠縁だが。 「おにいちゃん」 太陽の部屋に、ひょっこりと顔を出したのは、莉沙だ。 「ん?どうしたの、莉沙ちゃん」 「パパがね、さっさとしろ、だって」 この場合、勿論パパとは帝のことである。 「うん、解った。すぐ行くよ」 しかし、莉沙はじいっと見て、動かない。 「ん?あ、これ?オレ、今日から暫く実家に帰るんだ」 「じっか?」 「そう。天子姉(ねぇ)が家を継ぐから、その関係でね」 どうやら、太陽は家の都合で実家に帰るらしい。 「もうもどってこないの?」 「ううん。秋休みの間だけだから、大体1週間って所かな」 それを聞くと、莉沙はほっとしたようだった。 「太陽!お前電車の時間があるだろうが!!」 そういって怒鳴り込んできたのが帝である。 「わーかってるって、帝兄。確か、風も行くんだよね」 「ああ。静かになるな」 「うん。・・・・風がいなくても、家事、出来るの?」 「お前な・・・・(怒)」 ゴヅッ・・・。太陽が痛さのあまりしゃがみこんだ。 ちなみに、思い切り拳骨を喰らったのだ。 「バーロ。一通りは出来る。甘く見るな」 そうこうしていると、風がやってきた。 「んもう、外で伴蔵さんが待ってるわ。早くして!」 「解ったぁ・・・」 外に出ると、なるほど、黒い大きな車が止まっていた。 「すまねぇな、伴蔵」 「いえいえ。そんなことないですよ」 伴蔵は、にかっ、とわらった。 バンギラス一族特有の髪の色が、きらりと光る。 「じゃあ、いこうか」 「はい」 二人が乗り込むと、車はエンジン音を立てて走って行った。 「二人とも、秋休みなのかい?」 伴蔵が訊ねる。ちなみに、運転は伴蔵の組の若い下っ端だ。 「はい。一週間位は、実家にいます」 「そっか。二人とも、カントー出身だったかな」 そう、太陽も風も実家はカントー。 高校に通う為、エンジュで暮らしている帝の所で居候している。 たまの休みにはカントーに帰ることにしているのだ。 「ええ。私がセキエイ高原で、太陽はイワヤマの近くです」 「ずいぶん遠いね。寂しかったりはしないの?」 「最初の頃は。でも、慣れました」 「あら、太陽にしては珍しいわね」 そんな会話をしている内に、車はコガネ駅前に着いた。 「有難うございました」 「じゃあ、秋休み楽しんでおいで」 「はい。失礼しました」 二人はチケットと大きな荷物を手に、コガネ駅の中へと消えて行った。

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  秋休みはお盆みたいな感じです。