Story 1 〜エンジュ⇒コガネ〜
秋もたけなわ、山々の紅葉が美しくなり始めたある日の早朝。
風は、今日から一週間、実家に帰るため、その荷造りのチェックをしていた。
「さ、てと・・・。これで準備は終わったわ」
元々小さい頃から真面目でしっかり者の風のこと。
こういう事に関しては、同じイトコの太陽よりは断然上手である。
「あ、伴蔵さん。おはようございます」
朝一番の電車で行くのだが、コガネまでは伴蔵が送ってくれるのが毎年の常になっていた。
「おはよう。ウチの若いのが運転するから一寸危ないかもしれないけど、それはすまないね」
「大丈夫ですよ。・・・・・・・・それにしても、太陽は何をやっているわけ?」
もう行かないと時間が危ないかもしれない。
丁度やってきていた帝が、莉沙に何かを言い、そして、莉沙がぱーっと走って行った。
そして暫くして、帝も向かう。仕方なし、風も向かった。
「甘く見るな」
太陽のうめき声と一緒に、帝の声が聞こえた。
恐らく、家事のことで茶化したのだろう。自業自得だ。
「んもう、外で伴蔵さんが待ってるわ。早くして」
「解ったぁ・・・」
なみだ目の太陽を連れて行くと、帝と伴蔵が話していた。
荷物はお互いボストンバッグ位。自分で持つことにしている。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
二人が乗り込むと、車はするりと動き出した。
「二人とも、秋休みなのかい?」
伴蔵が訊ねる。若いのだと言ってはいたが、運転は手馴れたものだ。
「はい。一週間位は、実家にいます」
「そっか。二人とも、カントー出身だったかな」
そう、太陽も風も実家はカントー。
高校に通う為、エンジュで暮らしている帝の所で居候している。
たまの休みにはカントーに帰ることにしているのだ。
「ええ。私がセキエイ高原で、太陽はイワヤマの近くです」
「ずいぶん遠いね。寂しかったりはしないの?」
セキエイの実家は今どうなっているだろう。わくわくすると同時に、ちくりと痛んだ。
「最初の頃は。でも、慣れました」
「あら、太陽にしては珍しいわね」
そんな会話をしている内に、車はコガネ駅前に着いた。
「有難うございました」
「じゃあ、秋休み楽しんでおいで」
「はい。失礼しました」
二人はチケットと大きな荷物を手に、コガネ駅の中へと消えて行った。
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