Story 2 〜コガネ⇒ヤマブキ〜

伴蔵の車が消えてしまった頃、太陽と風はコガネ駅の中にいた。 「太陽、次の電車は?」 時刻表持ってくればよかった。 きょろきょろ見渡しているいとこを見て、ふとそう思う。 「えーっと・・・・あ、10時53分だって」 秋休みに入ったこの時期、カントーやホウエンからやって来ている者が、里帰りの為駅へと集う。 太陽や風も、その例に洩れなかった、と言う訳である。 「に、しても・・・・」 風がチケットを見ながらぼやいた。 「こんな混む時期に、よく一等指定席が取れたわね」 確かに、帰省客などでごったがえすから、指定席は取りにくいのが実情。 しかし、この二人は指定席のチケットを悠々と取っていたのだ。 「それ伴蔵さんが取ってくれたんだってさ・・・・・・・・・・・あ」 「そういう、ことね」 伴蔵はここいら辺りを仕切る広域暴力団の若頭兼跡継ぎ。 そういう事も、たやすい御用というわけである。 特に、自分の先輩兼幼馴染である帝の(イトコの)為ならば、何て事無いのだろう。 そうこうしている内に、電車に乗り込んだ。 電車とは言っても、超高速リニアモーターカーである。 遠く離れたカントーのヤマブキシティまで、そう時間は掛からないだろう。 「広いわね。さすが一等指定席って所かしら?」 二人はチケットに書かれた番号のコンパーメントに入ると、大きな荷物を棚に置いた。 「けどさぁ、そっち、大丈夫か?」 「え?」 本を取り出そうとして、いきなり聞かれて何かわからず、素っ頓狂な声を上げた。 「ほら、オレん家は天子姉が家継ぐって決まってるからいいけど・・・。  お前ん家、決ってないだろ。だから、さ」 「大丈夫よ」 吐き捨てるように呟く。 「私、次女だし。兄さんが家継ぐんじゃない?  それに、そうじゃなかったとしても、父さん達はまだ生きてるから」 「そ、っか・・・・」 窓の外は、深い森林地帯からだんだんと都市部に向かっている。 辿り着くのも、もうすぐだ。 「そう。大丈夫。―――誰が迎えに来てくれてるのかしら」 「誰だろうな。オレん所は天子姉・・・な訳ねぇか。  多分、家の誰かだろうな」 「当たり前でしょ。夏休みも帰ってなかったから、お正月以来ね」 「そうだな」 そんな話をしていると、アナウンス開始のチャイムがなった。 『まもなくカントー地方ヤマブキシティ駅に到着します。お忘れ物の無い様ご注意下さい・・・』 「あ、もうすぐだ」 「じゃあ、もう出る準備しなくちゃね」 「ああ」 電車は、ゆっくりと減速し、ホームに滑り込んだ。 北口から太陽が去って数分後、車を回すといって別の所に行っていたナゾノクサが戻ってきた。 「じゃあ、兄様が継ぐことになったみたいね」 「はい。当主は風様に継いでいただきたかったようですが・・・・」 「私なんかに当主の地位は似合わないわよ」 笑い飛ばしているが、内心複雑だ。 父親が当主の地位を継ぐまで、実は父親と父親の弟、つまり叔父は争っていた。 決して、家族の仲が悪いと言う訳ではない。寧ろ良い方だ。 だが、当主が居る本家とその兄弟の分家は長い事対立することが多かった。 対立を目の当たりにする事はなくとも、父と叔父の様に自分も成るのかと思うと、嫌だった。 「私も、風様に継いでいただきたかったです」 「は?」 ナゾノクサがぼそりと呟いた。 「若君は人の心を推し量る技量が幾分か欠けていらっしゃいます。ですから」 「もう、いいの。そのことは。兄様は兄様なりにやってくださるから」 吹っ切るように言い切った。 いつの間にか、セキエイの近くだ。

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  きっと飛んでても気にしないんでしょーね。うん。